東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)117号 判決
事実及び理由
審決に原告主張のような違法の点があるかどうかについて検討する。
(一) 請求の原因(四)の1(離型紙の解釈)について。
原告は、本願考案の離型紙はグラシンペーパーに離型剤を塗布したものであるのに、審決は、それがグラシンペーパーそのものであると解した点で、本願考案の離型紙の解釈(したがつて本願考案の要旨の解釈)を誤つている旨の主張をするが、審決には、後記のとおり、原告の右主張のような誤りはないものといわなければならない。
すなわち、原告の右主張は、基材紙質に離型剤を塗布して離型性を付与したものが離型紙であることを前提とするものであるが、離型紙にそのようなものが含まれるとすることに誤りはないとしても、そのようなもののみが離型紙であつて、その他のものは離型紙ということができないと解すべき理由はなく(少なくとも、本件では、右のように解すべき根拠となる事実を認めるに足る証拠はない。)、しかも、成立に争いのない甲第四号証(原告主張の本願全文補正明細書。以下「明細書」という。)によれば、明細書の考案の詳細な説明欄には、「(1)はグラシンペーパーの離型紙である。ここにいう離型紙とは、通常は相手側の物品に付着した状態を保ち、剥離する際には、相手側の物品から完全な形態ではがし取ることのできる紙であり、たとえばこの考案の好ましい実施例として示すグラシンペーパーの如きものである。」との記載があることが認められるところ、右記載をみれば、本願考案にいう離型紙が、基材紙質に離型剤を塗布した紙を含むか否かは別として、グラシンペーパーのような剥離性を有するものであるかぎり、基材紙質だけのものを含むことは明らかであるから、同趣旨の判断をした審決に誤りはない。
原告は、明細書第一頁下から五行目以下に「ここにいう離型紙とは、通常は相手側の物品に付着した状態に保ち、剥離する際には、相手側の物品から完全な形態ではがし取ることのできる紙であり」とあるように完全な剥離性を与えるためには、単なるグラシンペーパーでなく、それに離型剤を塗布することが必須要件である旨の主張をし、明細書における「たとえばこの考案の好ましい実施例として示すグラシンペーパーの如きものである。」(第一頁末行ないし第二頁一行目)との記載は、正確には、「たとえばこの考案の好ましい実施例として示すグラシンペーパーを基材紙質としてこれに離型剤を塗布して離型性を与えた紙」と理解さるべきであり、無処理のグラシンペーパーそのものを規定するものであれば、ことさら「離型紙」の用語を使用する必要はない旨の主張をするが、たとえ、本願考案が原告主張のように完全な剥離をも意図するものであるとしても、明細書中では、原告も自認するように、「たとえばこの考案の好ましい実施例として示すグラシンペーパーの如きものである。」(第一頁末行ないし第二頁一行目)とされており、これによれば、本願考案の離型紙にグラシンペーパーそのものの含まれることは動かしえないところであり、また、このように解しても、前記甲第四号証により認められる明細書の他の記載に矛盾することはなく、さらに、成立に争いのない甲第一一号証により認められるグラシンペーパーそのものにも相応の剥離性があるという事実からも首肯されるところであるから、前記の記載を原告主張のように解すべき理由はない。
(二) 請求の原因(四)の2(作用効果の差異)について。
原告は、本願考案は、グラシンペーパーの離型紙を使用し縦及び横の分割線(2)、(3)によつて区画される多数の矩形状シート部分(4)を設けるにあたり、各矩形状シート部分は隣接する矩形状シート部分に対して各片の中央位置a、b、c、dにおいて連続し、その他の場所では切離部(6)を設けて切離可能にしたことにより、引用例のようなミシン目の切離線とは異なり、矩形状シート部分の分割線上の中央位置の連続部が容易に裂断され、各矩形状シート部分上に載置した蒸し菓子類を損傷することなく、矩形状シート部分とともに取り出せるという、引用例のようなミシン目による切離線を設けたものには期待できない特有な作用効果を奏するものであるのに、これが格別のものでないとした審決の判断は誤りである旨の主張をする。
しかしながら、引用例のようなミシン目状分割線と本願考案のような矩形状シート部分の各辺の中央位置において連続する分割線との間の切離性の難易の差は、右ミシン目自体の形状・大きさ・間隔や、矩形状シート部分の各辺の中央部分において連続する部分の長さ等により、さまざまに変化するものであることは、経験則上明らかなところであるから、本願考案のものにおける分割線が引用例のものにおける分割線に比べて、その構成自体から格別優れた作用効果を奏するものとみることはできないものといわざるをえない。さらに、仮に本願考案のものが切離性において優れているといいうるとしても、いずれもその成立に争いのない甲第八号証及び乙第二号証によれば、紙片連続シートにおいて、矩形状シート部分に連続する部分を間隔をおいて形成し、その他の部分を切離部としたものは本願出願前周知であり、それらは、本願考案のように矩形状シート部分の各辺の中央位置において接続(連結)する分割線はないが、いわゆるミシン目状分割線に比べて、連続している部分の長さより切欠孔2又は切断部イにより切断されている部分を十分長くしたものであることが認められるところ、これら周知のものがいわゆるミシン目状分割線に比べて切離性が優れているとみるのが相当であるとすれば、その点において本願考案の分割線と選ぶところがないものといわなければならない。ただ、前記甲第八号証及び乙第二号証によれば、これら周知例のものの分割線は、横方向に設けられているだけで、縦方向には設けられていないことが認められ、この点で本願考案のものの分割線と相違するものではあるが、この点については、ミシン目状の分割線ではあるが縦横両方向に分割線を設けたものが引用例に明示されているので、引用例のミシン目状分割線に右のような周知技術を合わせ考慮して本願考案のような構成の分割線にすることは、当業者であれば容易に考案することができたものとみるのが相当である。
以上によれば、審決には、原告主張のような誤りはなく、これを取り消すべき違法の点はないというべきであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願考案の要旨
グラシンペーパーの離型紙(1)に、それぞれ縦及び横分割線(2)、(3)によつて区画される矩形状シート部分(4)を設け、前記矩形状シート部分(4)を、前記各矩形状シート部分(4)の各辺の中央位置a、b、c及びdにおいて連続するように形成する一方、前記分割線(2)、(3)上のその他の部分に切離部(6)を散在させ、切離可能にしたことを特徴とする敷紙片連続シート。
審決の理由の要点
本願考案の要旨は、前項記載のところにあるものと認める。
これに対して、昭和四年実用新案出願公告第五六一号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに左記の技術的事項が記載されているものと認める。
記
「紙類(2)に、それぞれ縦及び横分割線によつて区画される矩形状シート部分を設け、前記矩形状シート部分の、前記分割線上の部分に連続孔の切取線を設け、前記矩形状シート部分を切離可能にしたことを特徴とする敷紙片連続シート」
そこで、本願考案と引用例記載のものとを対比してみると、両者は、「離型紙(1)(紙類(2))に、それぞれ縦及び横分割線(2)、(3)(縦及び横分割線)によつて区画される矩形状シート部分を設け、前記矩形状シート部分を切離可能にしたことを特徴とする敷紙片連続シート」である点で一致しているものと認める。
しかしながら、両者間には、<1>本願考案が離型紙としてグラシンペーパーを使用しているのに対して、引用例記載のものが紙の材料を限定していない点、<2>本願考案が各矩形状シート部分の各辺の中央位置a、b、c及びdにおいて連続するように形成する一方、前記分割線(2)、(3)上のその他の部分に切離部(5)を散在させたのに対して、引用例記載のものが、矩形状シート部分の、分割線上の部分に連続孔の切取線を設けた点、の二点において相違点があるものと認められるので、この点についてさらに審究するに、<1>の点については、グラシンペーパーを敷紙等の包装紙に使用することは本願の出願前より周知の事項である(例えば、紙パルプ事典(紙パルプ技術協会編、昭和三九年一二月一〇日、金原出版株式会社で発行)第七六頁右欄より第七七頁左欄参照)から、グラシンペーパーを菓子類の離型紙に使用することは当業者がきわめて容易になしえられるものと認める。<2>の点については、本願考案も引用例記載のものも敷紙片連続シートの各々の矩形状シート部分に菓子類を載置し、処理を行なつた後、菓子類を載置したまま矩形状シート部分を切り取り、その後菓子類を矩形状シート部分からはがし取るようにした点は軌を一つにしており、また紙片連続シートにおいて、矩形状シートに連続する部分を間隔をおいて形成し、その他の部分を切離部としたものは本願の出願前より周知である。(例えば、昭和七年実用新案出願公告第一七一三四号公報参照)そして、本願考案のように、各矩形状シート部分の各辺に連続する部分と切離部とを散在して設けた点において、引用例記載のものと比較してとくに著しい効果を有するものとも認められないから、引用例記載のものの、各矩形状シート部分の分割線上に連続孔の切取線を設けることに代えて、本願考案のように、各矩形状シート部分の各辺の中央位置a、b、c及びdにおいて連続するように形成する一方、分割線上の他の部分に切離部を散在させるようにすることは、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認める。
したがつて、本願考案は、引用例記載のもの及び周知の事項に基づいてきわめて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により、実用新案登録を受けることができない。